スティーブン・キング『スタンド・バイ・ミー』

 いまさら取り上げるのにはためらいを覚えてしまうほどの名作中の名作。恥ずかしながら、今の今まで未読でした。
 森の奥に自分たちと同年代の子どもの死体が転がっている。その噂を聞いた4人の少年たちは死体探しの旅に出る。

 大人と子どもの境界線はどこにあるか? これは実に曖昧である。この曖昧さをなくすために、社会上通過儀礼を設けたりする。昔の元服がそうであるし、今では成人式といったものが極めて形式的に存在する。ニュージーランドにおけるバンジージャンプも本来は子どもから大人へと成長するための通過儀礼であった。

 そういった社会的な意味合いはないが、4人の少年がとった行動は彼らなりの通過儀礼である。彼らの目指す死体とは、人間が成長していった上で最後にたどり着く形である。そのような死を自身の経験として見つめることで、彼らの通過儀礼は完了する。すなわち子どもから大人へと成長する。

 だが、同時に彼らは子どもであることを失ってしまう。だからこそ、以降の彼らの結びつきは弱まり、それぞれがそれぞれの未来――現実的な未来に向けて歩みだすこととなる。物語は4人の少年の1人が大人になってからの回顧という形で語られる。その語りの形式が、「大人になることは成長することだが、そこで失われたかけがえのないものもある」とそんな思いを抱かせる。


 なお、同時収録は「マンハッタンの奇譚クラブ」。こちらに描かれた究極とも言える母性愛の形も読み応え抜群である。