北森鴻『写楽・考』

 蓮丈那智シリーズ第3弾。民俗学と謎解きミステリは相性が良い。いずれも現在わかっている事象を判断材料として理論を構築し、結論を導き出すという構造で成り立っている。民俗学のフィールドワークにおいてその対象になんらかの結論を出すことと、ミステリとしての事件が解決することが必ずしも有機的に結びついているわけではないが、ベクトルの指し示す向きが同じであるからかような印象を抱くのであろう。
 収録作は4つ。田舎の旧家に秘蔵された人形が無残に顔をつぶされた。その後起きた殺人事件との因果関係は? 冒頭の学生の間に広まる都市伝説めいたおまじないの謎をうまくリンクさせた「憑代忌」。湖に沈んだ鳥居に隠された意味とその調査中に起きたトラブルの因果関係を描く「湖底祀」。過去に調査した御厨家の祭りを再調査した時に見えてきた驚愕の事実「棄神祭」。謎の人物の書いた「仮想民俗学」という概念を書いた論文を軸に資産家の失踪事件と古物商の殺人事件とを描いた「写楽・考」。表題作にはゲストして冬狐堂こと宇佐見陶子が登場する。

 このシリーズは那智の弟子にしてワトソン役の内藤三國の視点として語られる。ワトソン役の宿命として事件の解決に当たっては那智の引き立て役のポジションに終始する。だが、民俗学者として有能であるところがミソ。この分野に限っては(やはり那智に遅れをとるのだが)探偵としての資格を有する。