山田風太郎『剣鬼喇嘛仏』

剣鬼喇嘛仏 (徳間文庫)

剣鬼喇嘛仏 (徳間文庫)

 2002年7月購入。3年以上の放置。『甲賀忍法帖』の漫画版『バジリスク』が大ヒットで再評価の高まる山風の忍法帖最後の作品集を今更ながら読んだ。ちなみに『甲賀忍法帖』は既読だが、『バジリスク』は未読。

 江戸時代におけるバブル期ともいうべき田沼時代で、民と官の女郎屋の対立を描き、ミステリ的趣向の大きい「女郎屋戦争」、乱歩ファン必読の「伊賀の散歩者」、男女の相性を占う胡散臭い道具を扱った「伊賀の聴恋器」、徳川家康の子秀康が付鼻をしていたというネタをもとに奇想爆発の「羅妖の秀康」、女を断つことにより最強の座を手に入れた宮本武蔵に対し、女と結ばれたまま武蔵に挑む長岡与五郎を描いた表題作、不穏な気配を見せる八戸藩に探りを入れる忍者による、夢を現実と化す忍法を著した「春夢兵」、キリスト教勢力たる南蛮寺による支配を覆すため見せた甲賀忍者の痛烈極まりない手段が光る「甲賀南蛮寺領」。以上7編。いずれもアイデアが一風変わっていて、奇想と呼ぶに相応しい。1作1作が短くまとめられているのだが、そんじょそこらに転がる他作家の冗長な長編作品よりも密度ははるかに濃い。

 しかし、山風逝去の時にはそれほど再評価はされなかった感があったのに、漫画が大ヒットすると盛り上がるというのは、メディアとしての影響力の違いを見せ付けられた気がして本来の小説ファンとしては少々複雑な思いがある。『バガボンド』による宮本武蔵ブームの時もこの感覚は味わったなあ。当時、吉川栄治を読もうとしたら井上雄彦絵の帯がついてたので買い控えることにしたことがあった。いや、『バガボンド』自体は傑作だと思うけど、それに乗せられて原作に手を出したと思われるのが(誰にだよ!)嫌だったからだ。というわけで、『宮本武蔵』は4巻まで購入→未読。山風も積読は多いけど、かくのごとくひねくれ者なので微妙なところを読んでみた。