栗本薫『グイン・サーガ103 ヤーンの朝』

 グイン探索中に突如起きた巨大な<<気>>のぶつかり合い。その原因を探るヴァレリウスは意外な人物と再開する。そして記憶を失ったグインもまた、ある人物と再開することに……

 相変わらず快調なペースで刊行されてくなあ。今巻ではグインはもちろんイシュトヴァーンやマリウス、スカールといったメインキャストそれぞれに転機が訪れることとなった。次巻より新たな局面を迎えることになりそう。しかしこのところ、これらの主役級人物を描く場面でヴァレリウス視点をとることが多い。非凡なキャラを語る上で普通、というか常識にかかった考え方をする人物の目線で書くのは常套手段ではあるが、すっかりその役が板についてしまった感じだ。もっとも、ヴァレリウス自身も非凡な人物であるが、グインやスカール、グラチウスと比べるとはるかに凡人よりである。で、その際亡き主君アルド・ナリスを引き合いに出すことも多い。今回、快男児スカールとの面会でもやはり棺桶に片足を突っ込んだ状態のスカールを死に際のナリスと比較している。いずれもせまりくる自身の死に対して冷静に受け止めていてまこと英雄らしいといえる。しかし、アルド・ナリスの存在感は死してなお大きなものだ――こう思わせるのも視点をヴァレリウスにしたからこそだろう。便利なキャラだ、ヴァレリウス。作者にとっても使い勝手がよいのか、何気にパワーアップもしているし。