島田荘司『夏、19歳の肖像』

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

 バイク事故で入院した病院から見える一軒の家。青年はその家に住む女性に心惹かれる。ところがある日、青年の目に飛び込んできたショッキングな光景。女性は父親を殺し、工事現場に埋めてしまったのか? 退院後青年は女性と親密になろうとあれやこれやと行動を起こす。女性の名は小池理津子という……

 いわくありげな家庭に育つ理津子を愛することで、青年は心身ともに傷つく。だが、青年は自分を男として尊敬するため、名誉と誇りを取り戻すため彼女への愛を示す行動をとる。19歳という年齢ゆえのまっすぐな純情。ほろ苦い、苦すぎる青春の肖像。

 正直現代に照らし合わせてみるとちょっとなあ……と思わせる部分が多い(ミステリ部分では、事件の大本に関わる動機とかもそう)が、そこは島荘。読んでいて引き込まれてしまう。私が読んだのは新装版で、いわゆる円熟の技巧を身につけた今の島荘の筆がだいぶ入っているようだ。だがこの手の小説は筆が未熟でも若さ、勢いで読ませてしまうものだと思う。改定前の版が気になるなあ。誰か両者を比較して論じてくれればいいんだけど。私は遠慮しときますが。