板野住人『痴漢男』

痴漢男

痴漢男

今話題の『電車男』と同系統のインターネット発の恋愛本。痴漢に間違われたキモオタ。しかしそれをきっかけに知り合った女性達と仲良くなり、恋をしていく。
この手の話を読んだ場合、普通に小説仕立てにしてもふーんて感じで終わってしまいそうだが、掲示板形式そのままにしておくと、妙にリアルというか生々しくて楽しい。言ってみれば仲間内で酒でも飲みながら恋の相談にのったりノロケ話を聞いたりしているような感じだ。
しかし、この手の話では実話なのかネタなのかという点が話題になる。これはさまざまなケースがあるだろうけど実話の場合はリアルバレってことを考えないのだろうか不思議に思う。『電車男』は結局全てを相手に話したようだけど、この『痴漢男』にはその手の後日談が付記されていなかったのでそれが気になった。
野暮といえば野暮極まりないのだが、恋愛っていうのは相手あってのものだからその相手に内緒でネタになるようなことをしていたっていうのはなあ。少なくとも私だったらスレ立てして相談はしない(参考までに言っておくが私はいわゆる「毒男」だ)。まあ、ネタにするというのは言い過ぎにしても、ノロケに近い話を全世界に公開するって言うのは私には出来ない。実際ただその手の「電車男」的行為を楽しんでいるだけに過ぎないスレを見てきたからかもしれないが、あまりにもネタにしすぎかと。それもこれも2ちゃんならではのことなんだろうけど。

ここで最初に戻るが私は『痴漢男』を「仲間内で酒を飲みながら恋の相談にのったりノロケ話を聞いたりしているような感じ」と書いた。つまりインターネットの掲示板でのコミュニケーションは飲み会でのそれにスタンスが近いのでは。気取ることなく馬鹿話(に限ったわけではないが)をして、楽しむということ。酒が飲めなかったりリアルでのコミュニケーションが苦手だったりして飲み会には参加できなくてもネットにアクセスするのは簡単だ。こうして電脳空間上に仮想酒場が生まれ、昼夜構わず酒抜きでの宴が繰り広げられる。時には恋愛相談だってしてしまうものさ。
ただそこで忘れて困るのはこの「酒場」での「飲み会」は常に不特定多数の視線に晒されている、ということだ。当人は内緒話のつもりでもそれは筒抜けだし、オフレコのつもりの発言は大声で叫んでいることとなんら変わらない。そのあたりの意識――ネットマナーというものはまだ出来上がっていない。未だ発展途上の文化ゆえであろう。