東野圭吾『殺人の門』
- 作者: 東野圭吾,角川書店装丁室高柳雅人,角川書店装丁室
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2006/05/26
- メディア: 文庫
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殺意を抱くことと実際に相手を殺すことの間には厚い壁がある。例えば一番人気の馬を貫禄の伝統芸で4着に飛ばされてヨシトミシネ〜と叫んだりするように、誰かにむかつく事があり氏ねなどと思っても実際に行動に移すことなどまずないであろう。この一線を超えるほどの殺意・憎悪とはいかなるものか――文庫にして600ページを越える圧倒的なボリュームでもってそれが描かれる。テーマがテーマだけに展開はカタルシスが得られるものとは程遠く、終始鬱々たる空気で進む。およそ爽やかな新年一発目に読む本にふさわしいとは言えない。
だが、この鬱々とした話にはひどく引き込まれる。それだけ主人公とその周辺のデティールがじっくりと書き込まれているからだ。明確に提示されるテーマも決してブレることはない。のみならず、冒頭と中盤に<殺人の門>をくぐって実際に人を殺した者、あるいはくぐれずに無様に失敗する者、この二通りの人物を配置することにより、<殺人の門>に対する主人公の立ち位置を相対化させ、結果的に明確なテーマがよりいっそう明確になっている。必然、テーマに対する読者の視点もブレることはなく読み進めていくことが可能となる。オチのサプライズが予定調和的であるがためにインパクトは弱くなっているものの、全体的にはよくまとまっている。