樋口有介『夏の口紅』
- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
従妹として紹介された季里子であるが、物語が進むと、実は血のつながらない妹であることが判明する。また、礼司には年上の彼女もおり、これに突然登場した姉妹の存在を加えるた表層の人間関係だけ取りざたすると、これはどうみてもエロゲです、本当にryというしかありえないということになりかねない。
しかし物語の主眼はあくまで姉探し、そしてその過程で生じる季里子との関係で、また、深層面で強調される「家庭における父性の欠如」や「人間関係における男性性の欠落」といった要素もあり、これらをひっくるめて描き出される若き主人公のひと夏の出来事は、とても甘く切ない。樋口作品ならではの良質な青春小説として仕上がっている。