米澤穂信『夏期限定トロピカルカフェ事件』
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/04/11
- メディア: 文庫
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作者のもう一つの人気シリーズ「古典部シリーズ」同様、青春のほろ苦さを描いているのだが、その筆致はさえに冴え渡っている。互恵関係といいつつも、読者としては二人の関係の進展を期待しつつはいられないわけだが、本作はそのへんまでもミスリードに利用しておりまことに心憎い。
以下ネタバレ。
なんと言っても構成の妙が光る。第1章の「シャルロットだけはぼくのもの」で小鳩君を犯人役、小佐内さんを探偵役に据えた話が展開される。二人を探偵―犯人の関係においた形でミステリを展開させるわけだが、この形を終章の「スイート・メモリー」では逆転させる。小鳩君が探偵役になり、小佐内さんが犯人役になるのだ。そしてその間に起きる事件も前者が微笑ましいものになっているのに対し、後者は非常に重苦しい。この落差、カタストロフィも効果的だ。
ミステリにおける探偵VS犯人の対決は、探偵の勝利によって終幕を迎えるのが基本的なつくりである。この点において本作も同様であるが主人公の二人の関係をこの構図に当てはめるという思い切った形をとることによって、ラストのなんともいえない重苦しさを作り出した。ミステリの流れとしては王道であるのだが、シリーズものの、それも完結編ではない途中の巻でこのような構成をとってきた作者の姿勢は侮れない。続編、そしてシリーズの完結に向けて非常に楽しみだ。