山田正紀『マヂック・オペラ』

 2005年10月購入。2ヶ月の放置。昨年から今年にかけての年越し本に選んだのが本書だった。正月気分で飲んだり飲んだり寝たり飲んだりしていたら読了まで相当の日数を費やしてしまった。
 二・二六事件前夜、特高の志村警部補は奇妙な依頼を受ける。「とある映画に出演している二人の人物の身元を調べて欲しい」と。依頼主は『ミステリ・オペラ』にも登場した”検閲図書館”黙忌一郎。調査に乗り出した志村の前に現れる事件と謎の数々。D坂ならぬN坂の殺人事件、ドッペルゲンガー怪人二十面相……
 太平洋戦争会戦前の暗い世相を表現するにあたって山田正紀が用いたのは芥川龍之介萩原朔太郎小林多喜二阿部定、そして江戸川乱歩。陰鬱さ、猟奇性を表現するにこれ以上ないだろうという材料をぶち込んで時代の空気を描き出した。それだけで満腹であるのに本格推理小説としての密室殺人の謎や、謀略小説としての特高と軍部の暗闘、最後には伝奇小説の要素もありと山田正紀ならではの昭和史がそこに展開している。ミステリに重点を置いてみたら前作ほど完成度が高いとはいえないが、それでもなお帯にいうところの「昭和史を探偵小説で描く」作品としてハイレベルな出来となっている。正月早々ご馳走様でした。